x八時すぎ上野からおなかぺこでかえって来て、夕飯たべていると、はじまりました。けさ新聞を見ると落雷二十余ヵ所ですって。そうでしたろう。稲妻というものの凄《すさま》じい美しさをあれだけ発揮すれば。床上浸水が六百余戸。床下三万余戸。旱バツの地方へも降ったのならよかったと思いますけれども、これは東京近傍だけだったのでしょうね。本当にあやういところをかえって来たと話し合いました。上野の山の中であれに会ってはテムペスト的風景すぎて、きっとこわかったでしょう、どんなにか。
 本の話、二十九日に会ったとききいたらそうでしたって。自分が参考として持ってゆくとの話でした。大観堂さがしているそうですが、年カン、年表類、古いのはなかなかない由。きょう山屋へ行って見ましょう、そして、あったのだけでもお送りいたしましょうが、どんなことになるか、あればよいが。
 お母さんのお手紙、あなたとしては又御感想がありますでしょうが、お母さんには真実と虚構の区別がいくらかつくだけもおよろこびだろうと思いました。百四十度は本当に息つまるようでしょう。
 平静専一が効果をあらわして実にうれしゅうございます。こうして手紙下さる、原稿のようにすきすきでも、でも手紙下さるからは、きっと幾分ましだろうと思い、二重にうれしい。その上にも猶々お大切に。てっちゃんのところではおくさんと赤ちゃんが仙台で、猫とさし向いの暮の由。ハガキ貰いましたから、あなたからおことづての本のこと、云っておきました。伸ちゃんのお友達の家は存じません。あのひとは先日話していましたが、すこし神経に障害をおこして二度入院したのですって。可哀そうね。今はいいらしいが。自分でそれを意識しているところがあるので、そうだったのでしょうが、はじめ私、何だか普通の人より堅くて、どういうのかと思いました。あなたはでも、そのことにおふれにならなくていいのでしょう、きまりわるいという風に感じているらしい様子ですから。
 きょうのお手紙の字、丁度原稿ぐらいね。夏ぶとんの工合いかがですか。かけていらっしゃるところ、ポンポンとたたいて上げたいこと。おはつ、と云って。この次お目にかかる折はきっと、お送りした方の白いの着ていらっしゃるでしょう。あれは能登半島の方で織る上布です。ああいう織物も来年はなくなります。
 きのう長い時間上野でねばっていたので、きょうは少々出足がしぶり
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