黷ツ余計な飾りのない無垢なこの盃。わたしの宝の中には不思議なものがあるでしょう。小さい木魚だの、片方のカフスボタンだの、くずかと思うようなものもある。考えたら何だか笑えてきました。親愛な滑稽さで。私たち人間の心というものの。
御注文の本、明日ぐらいに揃います。刑法切れているらしい様子ですが。〔中略〕
体温計のこと、土曜日におめにかかって。私が慶応に入院していた時のことを考えてみると、一分計は余りつかわれていず、平形の五分計でした。それを六、七分はかけたと覚えます。十分ではなかったと思います。〔中略〕
それから、一つ気味のわるいお話。新聞に出ているには、蜂須賀侯爵令姉年子という女のひとが(ひとりものの)、邸内に工場をたて、二十人の女工さんをつかって人間の髪の毛で混織毛織をつくる研究をしている由、国策。それはいいとして、このひとは、人間の髪の毛から調味料(?)をとるのですって。その上、何とかして髪の毛をコンニャクのようにして食べる法を発見したのですって。曰く、「それは美味しゅうございますのよ」、これには女の鈍感さがあふれていて、実にぞっとなります。髪から人間を食いはじめるということ、感じないのでしょうか。おそろしい想像がそこからのばされる、そのこと感じないのでしょうか。そういう研究[#「研究」に傍点]にひどくアブノーマルなものがかくされている。この人は少し変で、これまで妙な手芸品を出していましたが。ひどい世の中ですね。しみじみそう思った。理髪店から刈った髪買いあげてやっているのだって。きっとそのうちの女中さんたち、年子様[#「年子様」に傍点]の髪の毛のコンニャクたべさせられるのね。
予定どおり八日に林町へゆきます。こっちへはおみやさんという(金色夜叉のような名ね)お婆さんが泊ります。私は太郎と朝一緒に出て、図書館へ行って、近いから調べるものしらべて、例の婦人作家の歴史書いてしまいたいと思います、咲枝二十一日間はいるかもしれませんから、病院に。土曜日、そちらへ行って、それから。そしてその後も、そちらのかえりにはきっとよるようにしましょう。家、閉めないでよくなったので大安心です。
七月七日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
七月七日 第五十九信
けさ五日づけのお手紙をありがとう。九月の風邪はそういうわけだったのですね。それは全く仰云る通りです、私
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