驍「つもの顔ですこし笑ったような顔になって、それから黙ってお互にしばらく眺めていて、やがて私が喋り出します。きょう、御飯、どんなでした? そう? それなら、御飯にすこし食塩をかけてあがって見たらどう? おむすびはさっぱりしてうまいでしょう。工合がよくないと、お米の匂いやあまさが舌にもっさりして入りにくい。ほんのすこし食塩パラパラとやって御覧になるといいわ。すこしは変っていいかもしれないから。
こんな話はひとから見れば景気もよくない話ですが、それでも、ゆっくりした調子で、互を互のうちへ吸いこむように眺めながら話していれば、やっぱり、それはたのしいわ。そして、やすまります。(食塩のこと、本当ですからもしまだでしたらためして御覧下さい。或はもうエキスパートでいらっしゃるから、ちゃんと経験ずみかもしれませんが。)
それから私は封筒の話をします。この頃まるで紙がわるくなって、それにいつも只四角くて大きいの、飽きるでしょう、だからすこしは涼しいような色や形と思って気をつけて見てもろくなのがないから、到頭あの水色のような日本封筒にして見たのですが、どうかしら。色は軽くていや味でもないでしょう? ペンで表かいたり中から細かくペン字のつまったのが出るのは似合わないようですが、私が筆で巻紙で、大きい字さらさらと書くと、あれはお客用ですから、字の間から心持が洩ってしまいそうです。もしいやでおありにならなければ、すこしあんなのをつづけましょうか。
これは薄藤色ラベンダアですね。これもやさしい色合いでしょう。
それにしても、私は自分の背の小さいのが不便です。人ごみの中に入って、前のひとの背中へ鼻の頭がぶつかってばかりいるのなんか平気だけれども、そこの横のしきりが私の背たけだと胸のところまであって、帯のところがちっとも見えないのですもの。これは本当に落胆です。色どりの中心は帯と帯どめですから、たとえば私がおしゃれしたって、目も心もない板ばっかりがくっついているのですから。
ああ、そう云えば、この間『日日』の「ウソ倶楽部」に出ていた話。
或日、上野の動物園で鳥どもが大さわぎしている。行って見ると、沢山のとりどもが集って、真中に一人の男をとりかこんでごうごうとさわいでいる。よく見たら、その男は伊藤永之介でありました。(「雁」だの「鶯」、とりの名づくし故)これは近来の傑作で、おなかの皮を
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