焉Aではその作品の内容というものは果してどういうものであったろうか。『中央公論』の感想に一葉のことをかき、それにつづいて、彼女の場合でも、やはりそれを感じました。当時、二葉亭などの書いた文学と彼女の文学、その相互的な関係を見ると、歴史的に、彼女は、女が書くということに於ては新しい時代を具現し、かかれる内容、文体、そういうものでは古いものの最後の星とでもいうような、輝きかたではなかったろうかと思うのです。
自然主義文学の永い時代、一どはかたまって出た婦人作家の一人も、謂わば働きとおさなかった、それは何故か、野上彌生などは『ホトトギス』からですから。写生文時代以後です。やっぱり、明治の初頭に現れた彼女らの現れかたによっていると思われます。それらのことは、今日、女の作家というものが現れているそのことのありようにも関連していろいろ考えさせ、引いては豊田正子のような人造もの書きに到ります。それらのことを書きたいと思います。男の子に正子がない、あり得ないことについて、ね。岡本かの子の巫女ぶりと正子とは、文学と婦人とのいきさつのピンとキリを示している感です。
明日おめにかかれば、又書くことが出来るのは分っているけれども、これはこれとして出します。
ひさがここにいるのももう一週間足らずです。ああ、筧さんの奥さんの話ね、あれは先方の家庭の工合、考えようで駄目だそうです。これから十一月迄農繁期ですからどうせなかなかないでしょう。繁治さん、きのうの日曜日にはユニフォームを着て野球に出かけたそうです、服装一切会社から出て。体位向上なのね、きっと。本当に明日はどんな御様子を見ることが出来るでしょう。呉々もお大事に。こんなこと云わずものことという感じ、云っても云っても云い切れぬ感じ。いつも二つがぶつかった心持で、この字をかきます。
五月三十一日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
五月三十一日 第四十三信
余り久しぶりだと、前の晩眠らなかったりして、折角きれいな血色を見て頂こうと思うのに。
気分大してましでもおありにならないのに、私の薬のことありがとう。本当にありがとう。どうかゆっくりと願います。すべてのことはあなたの体の工合をもととして行くのですから。きのう自分で気がついたのですけれど、お目にかかった最初の一目、私何とも云えないきついような眼付するでしょう。一目で御
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