それがそもそも古臭いので、相手がちゃんとした人で、いずれ一緒になっていい人と思うならば、ぐずぐずせず一緒になって、相談して、一年ぐらい勉強やれるように生活を組み立ててゆくのが本当だということを私はいうのですが。一生一緒に暮すのだから一年待てない訳はないというのは変で、一生一緒に暮すなら、一年ぐらいの暮し方を相談してやれない法はない、という考えかたでなければ。けれどもおひささんをみて、自発的な愛情からでなしに結婚に入ろうとする若い女の人たちの心理がよく思いやられます。男の方には、様々の理由から結婚は内容的にリアルであって、或はリアルすぎる位ですが、ああいう若い、感情遊戯などですれていない娘にとって、結婚はきわめて抽象的な内容で、しかも形ではごくリアリスティックに迫って来るので、たじろぐところが生じるのですね。私としてもいい経験となります。おひささんはごくフランクに相談するから。きょう、勉強のことも打ち合わせかたがた相手の人に会おうとして、いるところへ電話かけたら(八時前)留守。勤め先へかけたら休み、だそうですとがっかりしています。何だか、普通大森辺の工場につとめている二十八九の男の生活としてピンとくるものが私にはあるが、おひささんはどう考えているかしらと思って居ります。私は黙っている。しっかりした人という定評があるのだそうですが、ボロを出さないという形でのしっかり工合では、とも思われます。普通の男の普通らしさとして一緒になれば、故障になるようなものでもないかもしれず。わきでみていると気になります。
[#図6、花の絵]さて、これから一勉強。きょうから過去の経済に関する学問への批評[自注10]にうつります。
この本は厖大な一系列の仕事が多年にわたってどのような一貫性で遂行されてゆくかということについて、実に興味ふかくまじめなおどろきを感じさせます。そしてますます前の方にかいたこと、即ち自分自身に理解するために、努力しつくす力、紛糾の間から現実の真のありようを示そうとする努力というものが偉大な仕事の無私な源泉となっているか、云わばそれなしでは目先のパタパタではとてもやり遂げ得るものではないことが痛切に感じられます。文学作品の大きいものにしても全くおなじであり、ブランデスだって十九世紀の文芸思潮に関するあれだけの仕事は、その日暮しでしたのではなかったこと明白です。更にそのよ
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