心地が納らないでいらっしゃる。これは結構なことです。健康ないきいきした心が動いていてナムアミから溢れているのは何よりです。
あなたのお送りになったものは九日の午後につきました。こんなに心配せんでいいのに! とおよろこびでした。お礼の印刷物をきのう七十枚ばかり発送しました。あなたのところへも御自分の名で刷られたものがやがて届きましょう。
さいわい、この四月五月でいろいろの整理がすっかりつき、家屋、自動車、煙草その他すべて達治さんとお母さんの名儀になっているそうです。名目上の相続をあなたがなさったわけです。すこし落付きになったら達治さんの分家届けをして、戸主の分だけ分けるようにしましょう。お父さんの年金は六月六日迄の分、恩給は半額(これは扶助)うけとれます。三百いくらかの簡易保険を戻します。墓地の入費などは不明ですが、今度の当座の入費と御|香奠《こうでん》がえしぐらいは、よそから来た分と私たちの分とで十分にすむと考えられます。お母さんは、二人がいなくなっても商売はやっていらっしゃるおつもりですし、二三年は何をしないでも食べてゆける自信があるからくれぐれも心配するなとのお話です。
お母さんが、この数年来ずっと店をやっていらしたおかげで、いろいろ生活に変動が生じても一本の筋はずっと徹っているから、その点は実にようございます。只これからすこし暇がおできになる。その暇が、これからのお母さんに心持の上で影響することが大きいから、危険はそこにあります。よく内容づけないといろいろよくない。よくない可能は内外にみえる。何とかしてせいぜいすこしは面白い本をよむ習慣を追々につけていらっしゃるようにしたいと思って居ります。商売の性質にうるおいがない。幼い子供がいない。まわりに大したものがいない。しっかりしなければならない事情はお母さんに幾重にもかかって居りますから。
私は今日からすこし落付くのですから、やがて御香奠がえしの買物のお伴などもして三十五日までいることになるでしょう。きのうは広島のTさんが又金銭上のしくじりをやったらしく、行方不明だとかで小母さんは只今そちらです。そっちももしかしたら何か御相談がいるかもしれませんし。
達ちゃんは元気で炭鉱のある、そして有名な石仏のある大同の兵舎にいるそうです。日本人の商人も居り、茶わん一ヶ八十銭の由、カフェーもバーもある由。慰問袋をこしら
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