いということにすると、それが最後の鍵で、女はすっかり魔法から解かれ、美しいまま生涯を暮せた、という話。
 私は大変面白く思いました。七世紀から十一世紀位までの社会でつくられた物語の中で、人間力以上の人物であるアーサが解けない謎が、女の真の心持の要求しているものであるという点、しかもおそろしい魔力が、女に対する男の真の親切な思いやりでのみ、終に解けるとされているところ、大変に面白い。その頃の婦人の生活一般、男の理想と現実の両面が象徴されていて、いかにも面白く思いました。こういう物語は、今の世の中の少年少女にも教訓になるようなものですね。国男などには大いに有益です、ひとつきかしてやろうかしら。
 この間うち隆二さんしきりによき結婚生活、特に芸術家の結婚生活について書いてよこします。貧乏だもので、おでことおでこをつき合わしているような夫婦が多すぎると。そして、真の夫婦というものは互により高い一人を求め合う面で結ばれているものだし、又一人で歩いてゆかねばならぬ、まじり合ってしまってはいけないとしきりに云って居る。何で感じたのでしょう。清少納言や何かひとりで暮していたことを書いて、ローマン的心持らしい。いろいろと微笑されます。勿論いい夫婦というに足りる夫婦は大変に尠い。それだけ互を人間として尊重し評価し愛して同体となっているのは尠いけれども、このひとにはまだ多くの、而も最も人間感情の微妙端巌なところが実感されていない。同時に、私はこの頃、深く深く、人間が一生のうちに、そういうところに近づき触れてゆける結び合いにめぐり合えるということの稀有さを、ひろい背景と考え合わせて感じ極まっているので、何だか無理もないようにも思えます。
 それにしても生活というものは何とリズミカルで、変化するに応じてそれぞれの味い、豊富なものでしょう。あなたはいつか栄さんの良人に、いやな勤めの味を自分も知っていると云っていらっしゃいましたね。この頃私には其がわかります。いろいろ事情も条件もちがうけれども、感情においては判ります。私としては新しい境遇によって得た新しい収穫です。なかなかためになります。益※[#二の字点、1−2−22]根が深くなる。この人生に於て愛するに足るあらゆるものを愛す心がいよいよ鋭く水々しくされる。この三四年の間に、私が経て来た生活とその収穫の経緯は一本の道の上ではあるが、芸術家の生涯
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