驕Bそういう時だったのに、と思う。そして、私が会うたびに、「あっちお金ちゃんとしてあるだろうか、御弁当は?」ときくと、「ああ百合ちゃんの云った通り、ちゃんとしてあるわ、安心して大丈夫よ」と答えていた丸い罪のない顔を思い泛べ、今更攻められず、攻められぬこともやり切れぬ、そういう気持です。あなたにこの切なさ、おわかりですか? 私があの窓から笠を指にひっかけてのび上って、そういつもいつも訊いていた、殆ど真先にきいていた。そして、そう答えられて気を休めていた、その気持。そして今その気持を思い出す気持。察して下さいますか。
 手紙に時刻を書かなくなったのは、きょうお話したとおり。このインペイ法[#「インペイ法」に傍点]はよんでいて笑い出してしまいました。あなたは実によくない悪弊だと思っていらしたと見え、蔽うの下(代り)に弊をかいていらっしゃるから。インペイ法とは、わるいと思ってインペイするのでしょう? 私はそんなにわるいと思う内容での夜ふかし(只喋るとか遊ぶとか)はしないという腹でいて(コレ迄のことよ)インペイはしなかったわ。只夜中の二時や三時に、先のように一種の楽しみに手紙かいたりしなかったからだと思います。私はそうこまごま頭をつかう質ではないわ。
 早朝の出かけのこと、ありがとう。ありがとう。そのように考えて下すったのを有難く思い、あのすこしずるそうなあなたの笑い顔をなつかしみます。でもラッシュ・アワーとかちあってひどい混雑だろうとすこし心配です。木曜日に試みて又方法をきめましょう。早いのは、ようございますね。ずっと歩ける距離なら本当に申し分なしだのに、片道だけでもね。もうすこし涼しくなって汗ばまなくなったら近く行ける道の探検をして見ましょう。ラッシュ・アワアのこみかたは言語に絶しますから。
 前後して、この次(つづけて書く)が、九月一日づけのお手紙への補足だのその他になりました。枚数が多すぎるから、これで一寸区切って。

 九月十四日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

 九月十四日  第五十信
 前の手紙にお約束の体温をかくのを忘れたから一寸。
                     夜は八時半ごろ
  十二日朝五・八 ひる六・三 夕六・七 夜七・一
  十三日朝五・七 ひる六・二 夕六・八 夜七・一
  十四日朝五・八 ひる六・三
 昨夕お客で、その若い女
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