戸台さんにきのうたのみ、四、五日で来ましょう。
 そろそろ本をおよみになるのだから、この次のたよりには、すっかり本の整理をして、お送りしましょう、書いてよこして下すった分、入れた分と、私はどっちかというと事務的にゆかず、すみませんが、然し、私がそちらに必要なものについて抱いている気持など、云うまでもないことなのだし、よろこびをもってしていることも云えば滑稽《こっけい》な位のことなのだし、マア折々御辛抱下さい。ああ、私は、ユリは間抜けだね、と云われることも時と場合では本当に大歓迎なのだから。非常に快適な雨の粒のようなのだから。
 ◎玉子のこと、サンドウィッチのこと、申しておきました。すみません、すみませんと云っていました。
 それから、一番もっと伺いたくて中途半端になっていたXのこと。貴方のお手紙で、きっといろいろ私によく分るだろうと楽しみにして居りますが、お話しの要点は、私にも分りました。Xの生活を助けてやるのはよいが、一つ家にいて、そこへDさんが良人としての資格で来ることについてあなたのお感じになる心持。
 簡単にいきさつを辿ると、XとDさんとの間にそういう感情のいきさつのあったことも、まして、結婚の意志があることも、私には全く告げられず、只歳末に近づいて、Xへの送金が農村の大不況のため途絶した、困った、どうしたらいいでしょうと云うことでした。一方、林町の家は改築する[自注5]のでいずれ私はどこかへ移る必要がある、では、私と一緒に暮して見るか? それに越したことはない。そういう話で、その話がきまっても、まだ彼女は私に自身の事情については黙って居りました。殆んど家がきまってからRさんが稲ちゃんに困ったと云って話し、稲ちゃんがXに、私に話すべきであると教え、Xはやっと話した。それで私はその時少し腹を立てたのでした、当然。
 ところが、Dさんの方は、家庭がああいう事情でおっかさん達はこのことをよろこんでいない。CちゃんがよくなってRさんと暮せるまで、Xは一緒に暮せない。皆弱くて、働けないのだから。
 DさんとXの心持については、私達周囲のものの腹の底は、あまり周囲から刺戟せず、時の自然な力で発展するものならさせ、さもないものならそれもよしという気持です。そういう印象を与えるのです、二人という人々が。性格や何かの点。
 Dさんは頻繁《ひんぱん》にここへ来ることはない。普通の友人として一週一度ぐらい来て、かえった、少くともこれまでは。Zさんの心持を、この間、それとは別に一寸訊いたのですが、あのひとはXに対して、別にどう思っていず、適当な結婚をしたらよいと思う、又対手のひとが、自分とのことに拘泥したりする必要のない程自分たちの結合は時間的に短かかったし、内容がない、という事です。
 こういうことは私とすれば何だか変なところがある。そんなものであるのか、あってよいのだろうか。そういう気がする。だが、あのひとはそれでよいらしい。私が改めてそういうことについてキッチリしようとするのが寧《むし》ろ分らなかった。二十五日に、貴方のおっしゃったのは深い友情の言葉でした。
 私としては、彼《あ》のひとが、貴方の友情のねうちを深くかみしめることが出来るか出来ないかが問題でなく、対手はどうであろうと、貴方のお気持を私たちの家庭生活の裡では貫徹しなければいやです。
 あなたが快くなく思いになるような風に私たちの家があってはならないし、又そんな家のある意味もない。私の心持お分りになるでしょう。
 今丁度別に手つだいをさがしかけていたところであったから、それが見つかったら、Xは別に住むように考えましょう。何か少しでも収入のある仕事を見つけて。そして、別に一つ部屋をもたそう。ちょいちょいしたことで手伝って貰うとしても。それから、私たちのところにいるうちは、Dさんは従前どおり普通の友人として来て、かえって貰いましょう。そういうやりかたはどうかしら。二十五日に、私はどちらかと云うと、何だか苦しい心持で帰ったの。途々《みちみち》いろいろ考えて。こんなに、貴方の心持を重く見て、自分の心持の中に入れて暮して居るのに、そういうことで貴方を不快にさせたのは実に実に残念であるから。そして、貴方が、自分の家が、変にもつれの間に入っているようにお思いになったらさぞいやだろうと。そういうことを考える必要の起ったのは何しろ、五年の間に初めてでしたからね。参ってしまった。
 私が自分たちの家をもつのは、林町の生活に対して図式的に考えているからではなく、実際の必要です。一つの家に、二人の主人が居ては主婦が困るのだから。Xのことは別としても、私たちの家はここに持ちつづけます。私は、貴方の心持を考えたら、あの夜でもXに部屋借りさせようかと思ったが、それも激しすぎるから、と、新しいプランを話した
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