だけにしておきました。けれども、貴方のお心持によっては、すぐそのように計らってもようございます。私が生活費をもってやる覚悟なら今すぐにでも出来ることなのだから。どうか御返事を下さい。私の生活なんか、そこで貴方がいやだと思っていらっしゃると思うと全く光彩を失ってしまうのだから。
 子供らしい人々は、貴方に対して書く手紙のなかで甘えているのね。そして、あなたへの親密さの一層の表現として、私がどうしたというようなことを誇張的に表現するのね。そう書くことで、あなたへの親愛を更に内容づけるように感じて。大人の年をして、子供っぽい感情のふるまいをすることは、はたの迷惑ですね。ともかく、この手紙は話さねばならない事柄の性質上、大して愉快でないのはくちおしいことです。でも、大体のこと分っていただけるでしょうか。この手紙の任務は其なのですが。只今ネルのお腰を速達で出します。呉々もお大切に、寒中だから。

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[自注5]林町の家は改築する――林町の家の改築は実現しなかった。
[#ここで字下げ終わり]

 一月三十一日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 目白より(封書)〕

 一月三十一日。第二十九信
 二十八日に第二十八信を書き、引つづきこれをかきます。先便の主な内容であったことが変って来たので。XとDさんとのことは、初めから、私共はたで何だか合点ゆかぬものあり、又、あっちの家庭関係では、どうしても折合ず、困難であったが、Dさんが昨日Xに自分が軽率であったこと、阿母さんのXがどうしても嫌な心持は彼にも反映すること、一緒に生活しようとする計画は絶望であること、XはXとしての生活を立てるようにとなど話した由。
 Dさんの家庭とXは久しい以前から知っていて、その私の知らなかった時代にXは、善意からであろうが、智恵ちゃんや阿母さんとして忘られぬ深刻な打撃を与えていて(療病に関し)迚《とて》も妥協の見込みないわけなのだそうです。
 僅か一二ヵ月の間に自分達のみならず周囲にも浅からぬ波を立て。軽率であったという言葉以上のようなものです。
 私の心持では、斯様のこと、分るようで分りかねるところがある。どんな気持で人生を見て、自分の一生を見ているのか。生活をよくして行こうとする意志とか努力とか知っていて、云っている人でも、何だか釘のない組立てもののような工合で。実に変な気がします。私としては
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