フうめ合せにきのうは其から二人の子供をうちへつれて来て御飯をたべさせて、おひささんに送らせようとしたら、たよりなさそうにしているんで又私が送って行ってやって。健造たちはさしみがすきなので御馳走してやったら、その一切を特別なお志をもって猫にやりました。この猫何ていう名なのかい? 名はないよ、オイオイニャーと呼んだり、わるさをするとネコ! と叱るよ、と云ったらフームという。名をつけてやっておくれ、そしたらその名を呼ぶからと云ったら、健造考えていて、きまりわるそうにしていてミミと縁側に書いた。何かの話に出て来る猫の名でしょう。ター坊に、兄ちゃんが猫にミミって名をつけたから、家へかえってお話し、と云ったらター坊、あたしが話してやる健ちゃんきまりがわるいから、だって。六つと九つの兄妹。大変に面白く、そして林町の太郎のようにスポイルされていないから、いかにも「小さい人々」で心持よい。子供たちの母さんは『婦人之友』への小説できのうは大忙し。私のは『文芸春秋』。新聞の方も母さんはつづけていて、前月は先方が金を渋ったのでねじこんだが、今日は一ヵ月先どりしたから、とキューキュー云っている。まあこんな工合ですね。
 あしたお目にかかるのだけれどもお体はどうでしょうか。この間の暑さ! 六十年ぶりの由。私は腕の汗が机にきしむので手拭を当てて仕事しました。苦しくおありになりませんでしたか? 氷の柱をあげたいと思った。それからフーフーあつい番茶を。夏ぶとんは不用のように仰云ったけれども、心持のものですし色彩のものだから二日ばかりのうちにタオルのを入れます。しぼりの浴衣はいいでしょう? きょう袷せ類が着きました。
 先月から今日までにかけての私の仕事は、いくつかの新聞に短いもの三つ、映画批評三つ、中国における二人のアメリカ婦人=スメドレイとバックのこと、社会時評のようなもの一つ、小説。すべてで枚数にすると百五十枚以上。これから二十日すぎまでに短い小説を一つに文芸時評一文化時評二つだけはいや応なしです。なまけて居ないでしょう? それに小説について、私は、「雑沓」、「猫車」から今度のにかけて、少し発見したところがあります。いつぞやあなたが作品の実質で漱石や鴎外ならざる時代を語ることについて書いて下さったことがあった、ああいうことも原論としてはわかっているのだけれども、書いてゆくそのことで新しい世界をひ
前へ 次へ
全118ページ中59ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング