ら桜をあなたこなたに眺め、寂とした校庭のむこうに当直室の灯が見えたりして。私は他の作家たちのように夜だけ書くのが好きではないでしょう。私は昼間が好き。しずかな昼間の部屋でものを書くのは何と健康で、ゆったりとしていいでしょう。丁度午後のそういう時間が体操とかち合って、ここの学校の先生はさながら自分の肉体の柔軟さと力感と肺カツ量とをたのしむように空まで声をひびかせて、ソラソラソラ手をあげてハッ、ハッもう一ついきましょう、シッシッと。それは(アラアラ地震です、ゆれる、ゆれる。眠っていらしって知らないのでしょう?)活溌です。女の子が声を揃えて一《イー》、二《ニー》とかけ声をかけたり、女の子が力をかっきりこめず、イー、ニー、と澄んだ声をそろえて〔後欠〕

 四月十四日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 上落合より(はがき)〕

 第十一信の(二)[#「(二)」は縦中横] 太郎はこの頃それはチューチューとひどい音をさせて自分のゲンコを吸います。ちび公(プチショーズ)を今よんでいて、あなたが何となく少年時代をいろいろお思い出しになっただろうと感じました。『白堊紀』の小説はそれより後のことが書かれているわけです
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