毛織地のカーテンと原稿紙の字とは大変美しく釣合って、稲子にさすがだといってほめられました。まるでお話ししながら、そこに全体の仕事を感じながら、自分も仕事をしているような居心地よさです。美しさというものは何と活々したものでしょうね。何一つめずらしいものではなくて、しかもこれらのものは本当に堅実で、雄々しく美しくて鼓舞的な輝きを含んでいるのです。その枠の下の本棚は私の御秘蔵本棚とも云うべきもので、いろいろ愛する本を並べて居ります。
この家へ越したのが十一月二十日です。引越し通知のハガキはもう御覧になって居るでしょう? あれも壺井さん夫婦が世話をやいてくれたのです。お正月のハガキもやってくれるそうです。私たちの結婚通知の印刷物以来の恒例だからやってくれたのですって。――原泉夫妻[自注18]は四谷の大木戸ハウスというアパートで細君はトムさん[自注19]の新協劇団第一回公演では「夜明け前」に巡礼をやり、今やっているゴーゴリの芝居では何をやっているか、旦那さんの方はきっと徹夜して小説かいてるでしょう。今夜見物する予定でしたが叔父様をお送りしたからやめになりました。
この近所には千葉で三年ばかり暮すことになった山田さんの奥さん[自注20]もいるし、河野さくらさん[自注21]が留守中のひとり暮しをして居ります。
ところでお読みになる本について、私ははっきりしたお手紙を見るまで自分の考えで入れるしかないのですが、文学に関する本では少し古典と現代の諸潮流の作品とを系統たてて読んで御覧になりませんか。あなたが三日にまだプランをもっていらっしゃらなかったのは私には自然に感じられたし決して意外ではありませんでした。私の文学的ウンチクを示すようにいい順で一つよませて上げたいと考えて居ります。文学・美術・音楽等についての本は大体並行して一冊ずつよめるようにいれてゆきましょう。その他の種類で、あなたが実際的知識を主張していらっしゃるのは当然ではあるが私は深く満足したし、自分の考えと同じ考えを知って嬉しゅうございました。哲学についても、私はきっと同じように、今の哲学の動きに興味をお持ちになっているであろうと思うのですがどうかしら。当っていますか? もし御同意ならやはりそのようなものを心がけましょう。それを手当りばったりでなく、様々の点で順をふんで入れます。だからその順にあなたは注意をなすって下
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