美が尠い。
「――京都の文化そのものがそうじゃない? 大ざっぱに云って」
「或る点そう思う、私も」
 全然反対の例にとれる龍安寺の石庭のことなど喋りながら、彼等は真葛ケ原をぬけた。芝生の上はかなりの人出で、毛氈《もうせん》の上に重箱を開いて酒を飲んでいる連中が幾組もあった。大人の遊山の様がいかにも京都らしい印象を彼等に与えた。
 円山の方へ向って行く。往来が疎らになった彼方から、女が二人来た。ぼんやり互の顔が見分けられる近さになると、大きな声で一方が呼びかけた。
「ゲンコツァン!」
 桃龍とも一人、彼等の余りよく知らない女であった。
「――おふれまいか?」
 例の癖の睨むような横目で、桃龍は章子の問いに合点した。
「どこへおいきやすの」
「どこって――その辺ぶらぶらしようと思って」
「ふーん。……ほんならあてもいく。なあ、ヘェ」
 つれに振向いて耳打ちし先へやって、彼等は章子達と近所の金魚屋へ入った。入口は植木屋のようで、短いだらだら坂を数歩下ると開いた地面がある。支那鉢や普通の木の箱があって、いろんな種類の金魚が泳いでいた。或る箱の葭簀《よしず》の下では支那らんちゅう[#「らんちゅう
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