社会主義社会建設の現実を描き、その発展の意味をしらせる要素は、何かの形でどの作品の中にもこめられている。特に労働、集団農場クラブ用の小戯曲、啓蒙フィルムなどは、活溌に時々の情勢に応じながら百パーセントにその役目を果して来たのだ。
 さて、愈々五ヵ年計画がはじまった。五日週間が実行される。工場、役所、農村で階級的能率増進のためのウダールニクが組織される。党、生産組織、あらゆる場所で反革命分子の清掃が行われる。――革命的なソヴェト同盟のプロレタリアート、農民が社会主義社会建設のため、一がん張りがん張り出して見ると、今更ながら革命後までも根を張って、コソコソ策動していた階級の敵の存在が後から後からばれて来る。
 ばれない奴等はここを先途とあらゆる組織にもぐり込み、労働者、農民の決定的な勝利を妨げようとする。
 農村の集団化の過程で農村における富農とそれにくい下る旧勢力がどんな悪意に満ちた中・貧農の敵であるかを大衆の面前に曝露した。集団農場についての文学的報告でこれに関する恐ろしい事実を記録しないものはなくなった。
 モスクワ地方労働組合ソヴェトの名によって劇場で上演され大好評だった「憤怒」。ワフタンゴフ劇場で出した「前衛」。どれもこれも、農村の集団化に際しての労働者農民の結合的活動とともに、旧勢力の罪悪を被うところなく摘発している。
 映画「大地」(ドブジェンコ)は勝れたカメラの技術にかかわらずいろいろ批判さるべき要素をもっている。が、その一つとして、宗教の悪影響、階級的敵としての影響力がフィルムの上で過少評価されているという事実があげられたくらいだ。
 一九三〇年に入ると、ソヴェト同盟の大衆は、国際的な事実としてローマ法王ピオ十三世が世界外交のかげにもっている役割は何であるかを見せつけられた。
 三位一体は大資本、法王、軍閥で、祝福の代りに大衆の疲弊と流血があるだけだ。
 一九三〇年、革命劇場上演の「第一騎兵隊」は、一九一七年――一九二〇年の国内戦の歴史、第一騎兵隊の功績を芸術化するばかりではない。帝政時代のロシア兵営内の生活の愚劣野蛮な絶対主義を遺憾なく示している。
「セメント」を上演した写実劇場(元はモスクワ芸術座第三スタジオと呼ばれていた)は新しく「勇敢な兵士シュヴェイクの冒険」を脚色上演しはじめた。
 これは、元オーストリア軍隊内の野蛮な腐敗とを諷刺的に描き出したチェッコ・スロヴァキアの作品である。
 多くの移動劇団、或は「生きた新聞」は身振狂言で帝国主義とファシズムに対する攻撃を始めたが、ここで一つ際立つ芸術上の現象がある。それは諷刺的要素の増大ということだ。
 芸術上、諷刺性格が二通りある。一つは手投弾のように迅速な、的確に敵をバクロ、攻撃する役に立つ性格。他の一つは、自己批判の表現としての諷刺がある。
 或るもの、或る事を見て、笑う。もうそこに一種の批判がある。ソヴェト同盟の芸術家、特に映画、演劇、絵画の作者たちは随分これまで上手に諷刺を生かして来た。
『鰐』というソヴェト諷刺雑誌がある。それを買って頁をめくると、五ヵ年計画の達成のために、ソヴェト同盟の大衆がどんな社会的・階級的自己批判をやっているか。その自己批判の焦点が発展的に移って来ている過程までわかる。
 ファシスト、ブルジョアジー、官僚・軍閥、懶けて飲んだくれな非階級的労働者、官僚主義で形式主義で能なしの党員、社会ファシストとなった民主主義者などは、ソヴェト同盟の或る種の芸術の中ではもう漫画的に様式化されてさえいる。
 ソラ出た! ハッハッハッ。実に分りが早い。一目そういう者の姿を見ると、ソヴェト同盟の大衆が謂わば階級的に用意している哄笑、嘲笑が火花のようにとび散るのだ。
 成程、人形芝居をやったり、身振狂言をやったり、漫画の或る場合なんかは、こうなっていれば手っ取りばやい。一応直ぐわかる。だが、二応、三応と、実際の客観的事情に照らし合わせて考えて見た場合、こういう風に様式化したまんまの人物を無制限につかって、どの程度のリアリスティックな芸術の感銘を与えることが出来るかという点は、疑問になって来る。
 何故なら、ソヴェト同盟で諷刺的に様式化されたブルジョアジーは、いつでも燕尾服にシルク・ハットで、太い金鎖りをデブ腹の上にたらし、小指にダイアモンドをキラつかして、葉巻をふかしている。
 しかし実際に、どんな場合でも、ブルジョアジーはそんなきまりきった風体しかしていないだろうか? どうして! 彼等は自身の利益を守る必要に応じて、技師にもなれば、教師にもなり、ソヴェト同盟では、現に階級の闘士ボルシェヴィキらしい見せかけをした反革命分子さえ発見しているではないか。
 ソヴェト同盟の舞台の上、絵の上にきまった形でブルジョアジーが登場する。大衆が笑殺する。それで根っきり
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