った。工場、役所の内部では、新しい溌溂たる生産能率増進のために、官僚主義排撃が、盛に行われた。
反革命的異分子の清掃が、あらゆる部門にわたって積極的に行われはじめた。
間断なき週間制によって、五日週間を働くようになった一般勤労者は、職場職場で、生産能率増進のウダールニクを組織し、家へかえる道々には、例えばモスクワ市立銀行の屋根に、赤く翻るプラカートを見た。そこには大きい字で書いてある。
「|我等のところ《ウナス》では、清掃《チストカ》が|行われている《イディオット》」と。
これは、ひろい大衆に向ってなされた階級性の新たな自覚への召集であった。その銀行内に、内部の者の知らない反革命的分子がもぐりこんでいるかもしれない。諸君、それを知らせろ! そういう呼びかけである。
ソヴェトの五ヵ年計画は、大衆の日常生活のプログラムを変化するとともに、次第次第に大衆の気分をもかえて来た。どんな小さい隅っこの職場に働いている労働者も、社会主義社会の建設のために自分が無関係ではないことを前にもまして自覚した。厳密な階級的批判が全同盟内で、新たな勢をもりかえした。
ソヴェトの作家たちは、ロシア・プロレタリア作家連盟を中心として、彼等が社会主義の敵か味方かを決議しようとする大衆の前に立ったわけである。
「大衆の中へ!」というスローガンのかかげられていた時代に書かれた作品としてはマヤコフスキーの「南京虫」「風呂」。ベズィメンスキーの「射撃」「変人」。リベディンスキーの「英雄の誕生」等がある。
これらは、工場内の官僚主義に対する諷刺、プロレタリア技術発展への翹望、小ブルジョア的感傷、淫酒、淫煙の排撃。工場内ウダールニクを組織しようとする若い労働者たちの歴史的使命など、それぞれに当時の段階を反映した社会的な内容をもっている。
未組織の勤労者の、階級的良心を、正当な評価において見なおしたのが「変人」であった。
労働者は、組合からの半額切符で、メイエルホリド座へ行った。そしてマヤコフスキーの「南京虫」を見物したが、作者の諷刺と演出者の誇張しすぎて表現派風なこり[#「こり」に傍点]かたは、民衆によくわからなかった。
リベディンスキーは、ロシア・プロレタリア作家の頭株の一人であるが、その長篇「英雄の誕生」は一般の注意を呼び起すと同時に、疑問をも引おこした。小説の主人公は、経歴あるボルシェ
前へ
次へ
全61ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング