ャラップその他の世論調査所の人々の長い顔とは、一九四八年の世界のユーモアとなった。最も真面目な教訓の一つでもあった。汗顔の至り、という東洋の適切な形容のことばを我身にひきそえて感じた人々は、世界にどっさりおり、日本の中にもたくさんいただろう。この日ごろ日本の新聞としての公器性が失われていることを遺憾に思っている真面目な人々は、十一月三日のほとんどすべての新聞がデューイ氏当選確定とかき、デューイ氏断然勝たん、共和党早くも祝賀準備と、まるで丸の内へんで見てでも来たような記事をのせ、『読売新聞』が第一面の中央に、白堊館の主となる? トーマス・デューイと外国記者の記事をのせたりしていたのを、決してただ眺めてすぎることをしないであろう。それらは、記憶される。日本の人民のうけた意味ふかい教訓として記憶される。実利実益の見込みにからんで国内をつよくひろい幅で流れまわったこのたびのアメリカ大統領選挙の予測の方向につりこまれて、複雑な現実がひきおこす誤差に思いも及ばず、一二の雑誌がみっともなかったとしても、その現象をいたずらに嘲笑することはできない。はい、という言葉とありがとうということばしか意志の表示を知らないように自分の政府によって指導され扱われている日本の人々が、幾年かのちのまたこうした場合に立ちいたって、ついうっかり自分たちの現実判断をとりちがえ、植民地人民の世論調査によれば、などととんだ利用価値を発揮したりするあわれさを示さないように、わたしたちは手堅い自立の訓練を身につけなければならない。
こんどのアメリカ大統領選挙予測では、ギャラップ博士の米国世論調査所を筆頭に、アメリカのほとんどすべての世論調査機関が、失敗した。十一月六日、七日と『東京新聞』にのせられた小山栄三氏の「世論調査の誤差」は世論調査の技術について素人である多くの読者にとって興味と知識とを与えた。あの記述によって大統領選挙予測で、その調査所の権威を失墜させたのは今回のギャラップ博士の米国世論調査所その他の例ばかりでなかったことがわかった。一九三六年ルーズヴェルトとランドン両候補の間に大統領選挙がたたかわれたとき、当時アメリカにおいて世論調査の最大権威とされていた『リテラリ・ダイジェスト』誌の世論調査が、ランドンの勝利を予測し、誤差一八%で、ダイジェストは「四十八年間の光栄ある世論調査の歴史が汚れてしまった
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