判廷で行われている。「白樺」の人々は、この事件の扱いかたで、権力者が期待したとおりの影響を蒙った。彼らは、当時の日本をいっぱいにしていたやぼな社会的・階級的ごたごたからは目をそらして、世界人類の能力の輝やかしい可能とそのおどろくべき発露に関心を集めた。これは、日本の知性の歴史にとって忘られない明るさ、つよい憧憬、わが心はこの地球を抱く思いをさせたのであったが、その胸のふくらみにくらべて脚はよわく、かつ光栄ある頭蓋骨をのせるべき頸っ骨も案外によわかった。日本のいく久しい封建社会の歴史にもたらされて、日本の知性は、強靭な知的探求力とその理づめな権威力をもつより、いつも感性的である。その日本の感性的な知性が西欧のルネッサンスおよびそれ以後の人間開花の美に驚異したのが「白樺」の基調であった。
 繋がれているものにとって、翔ぶという思いの切なさは、いかばかりだろう。低くあらしめられて、思いの鬱屈している精神にとって、高まり伸び達しようとする翹望は、どんなに激情をゆするだろう。昭和初頭から、それがわずか十年たらずの短い間に八つ裂にされてしまったまでの日本の左翼運動とその思想が、今日かえりみて、多く
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