してたどって行くと脇道から人の足音がかるくたちどまったかと思うと大男が槍のさやをはらってとびかかるのをびっくりして逃げる時にふりかえって見ると最前情をかけてくれた亭主である。出家は言葉かけて「私は出家の身でござるから命が惜しいにはござらぬけれ共何のうらみがあってこの様な事をなさるのじゃ。路銀が取りたいのならば命にかえてまでおしみませぬじゃ」と小判百両をありのまんまなげ出せばそれをうけとり「金がかたきになる浮世だワ」と脇腹を刺通すと苦しい声をあげて「汝、此のうらみの一念、この幾倍にもしてかえすだろう、口惜い口惜い」と云う息の段々弱って沢の所にたおれたのを押えて止をさし死がいを浮藁の下にしずめそうっと家にかえったけれ共世間にはこんな事を知って居る人は一人もなくその後は家は栄えて沢山の牛も一人で持ち田畠も求めそれ綿の花盛、そら米の秋と思うがままの月日を重ねて小吟も十四になって美しゅう化粧なんかするもんで山里ではそれほどでなくっても殊更に目立って之の女を恋うる人が限ない。自分の姿を自慢して男えらみ許りしてとうとう夫もきめないで身をぞんざいにしていろいろの浮名をたてられる。親達は心配していろいろ
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