って誇りと愛とのしるしである校標を溝へ投げこまれたことについて深い憤りを感じた。みんなの心がそのことを腹立たしく思う気持で結ばれた。ふと気がついて、軍隊はおどろいた。自分たちが学校の看板をとって投げすてたその溝川へ、あろうことかA部隊と大書した板が投げこまれているではないか。娘ども、と思っていた女生徒たち以外にそんなことを敢えてする者は、その雑木林の町にはいない。問題となって、そこの女生徒全部を軍法会議にまわすと云って脅かした。学校当局はあわてて生徒たちに謝らせようとした。
けれども、生徒たちは、皆で軍法会議にまわされるならば、それは仕方がない。軍法会議の席で、初めに乱暴をしたのは誰であるかということを明かにして、裁判して貰う意見にまとまった。そして、その意見を守って、譲らなかった。大分いろいろと揉めて、女生徒たちはあれこれと脅かされたが、遂に譲らないので、さすがに軍法会議へまわすことも出来ず結着がついた。
そういう短い話を、間接にきいた。細かいことはもしかしたら事実と違っているかもしれない。けれどもあの戦争中学者だの大臣だのがみな軍部の力に圧されて、こびることしかしなかったとき
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