実が漂いついて根を卸したのか、わからない。それ故何だか物足りない。ただ、九州に来て、線の素直な、簡明な樹幹ばかり眺めていたところへ、いやに動物的にうねくって縺れ合った檳榔樹の体やばさばさふりかぶった葉を見、暗く怪奇な印象を与えられたのは面白い。なるほど、南洋土人が、この樹の下で踊るには、白く塗ったところへぞッとする模様を描いた巨大な仮面でもかぶらなければ追つくまいと思う。
 また大淀まで、今度は軽便鉄道で戻るのだが、道々、私共は本当に見渡す限り快闊な日向の風好を愛した。高千穂峯で最初の火を燃したわれ等の祖先が、どんなに晴れやかさの好きな自然人であったか、またこの素朴な大海原と平野に臨んでどんなに男らしく亢奮したか。その感情が今日の我々にさえ或る同感を以て思いやれる程、日向の日光は明かで生活力がとけ込んでいる。
 武者小路さんが新しき村を創るに日向を選んだ。これなど、あすこへ行って見て、ただ都会から遠いとか何とかいう原因でない、武者小路さんらしさをしみじみ感じた。(氏自身の理由とされるところは知らないけれども)武者小路さんと日向の天地と、本質がどこか相似ている。九州中を求めて歩いても、外
前へ 次へ
全7ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング