ついた訳なんです。――二人でありぎり食べて御飯が足りないって騒いでいたら――どうしたろう、あの婆さん――我々が入って来る時見えませんでしたね」
そのお婆さんの女中頭が廊下を通りすがりにそれをききつけ、黙ってお代りを持って来て呉れたのだそうだ。
「――今日もその伝じゃあない? 私ぺこぺこよ」
「こんなに私いただくの珍らしいんです」
食事の半から、細かい雨が降り出した。
「歩いている間でなくてよかったこと」
すると、網野さんが何だか冗談に恐縮したように肩をすぼめながら、
「きっと私がいるからですよ」
と、おかしそうにした。
「あら本当よ、この間夜いらしった時だって雨だったわ――何の生れ年? 龍?」
「先ね、私が叔母の家へ行くときっと雨が降るんで、泣き娘って渾名つけられちゃったんです――それがなおったんですけれどね……」
私共は快く雨の夜景を眺め満足を感じつつ悠っくりそこに坐っていた。
[#地付き]〔一九二六年九月〕
底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
1981(昭和56)年3月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十五巻」河出書房
1953(昭和28)年1月発行
初出:「時事新報」
1926(大正15)年9月21、22、25、26日号
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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