バタン、こっちへバタンと引っくりかえすが出た銅貨はほんのぽっちり。今度は正面の大賽銭箱。すのこのように床にとりつけてある一方が鍵で開くらしい。年よりの男が大きい昔ながらの鍵をガチャガチャ鳴らしてあちら向きに何かしている。白木綿の兵児帯が横とびに奥へかけ込んで、すぐかえって来る。すべて無言のうちに須彌壇の前で行われる動作、やや貧相な中に生動する何ものかがあり、鶴三画的であった。帰途、富士を見た。薄藍のやや低い富士、小さい焔のような夕焼け雲一つ二つ。
A氏のところに寄る。温室にスウィートピーが植込まれたところ。一本一本糸の手が天井から吊ってあり、巻ひげ[#「ひげ」に傍点]を剪ってある。或は細かい芽生。親切心のたっぷりした者でなくては園芸など出来ずと思った。温室のぶどう[#「ぶどう」に傍点]、バラの花を貰う。今度お菓子を持って行く約束。すっかり日がくれ提灯の明りをたよりに夜道を帰って来た。
Mよりきいた話。――承法のこと。雨が降りチング(ing)雪が降りチングで喧嘩になったこと。公案の外国語訳のこと。
[#地付き]〔一九二七年一月〕
底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
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