はあってやるまい。
 目のするどいフレデレキのお爺さんと、マリアテレサがしきりに何か話して居る。
 笑いながら話して居るのに、どうした事か後では兵隊が恐ろしい顔をして居る事、
 抜目のない人同志の話は油断のならないものらしい。
 私はわきでそう思って居る。
 ルーテルの何代目の孫だとか云う男が、人々の間を游ぎ廻ってしきりに何か説いて居る。
 一代目よりは体もやせこけて、ピコピコした様子をして居る。
 こわれたカブトを気にして居るナイトのドンキホーテと同じ木の根に腰をかけて仲よくして居るところを見ると、やっぱり何かの血縁にでもなって居るのかもしれない。
 偉かった筈のクロムウェルは何か思いに沈んで額を押えて居るし、ポルトガルのヘンリ王子が槍をついて歩きながら海を想う歌を大声で歌って居る。
 マルコポロは、自分で書いたらしい本を持ってきまり悪そうにして居るし…………
 地球を片手で持ちあげるジャイアントの様な気持で、得意な笑を浮べながら私は私の根元にひろがって居る、可笑しい世界をながめて居る。



底本:「宮本百合子全集 第三十巻」新日本出版社
   1986(昭和61)年3月20日初版発行
※1915(大正4)年7月24日執筆の習作です。
入力:柴田卓治
校正:土屋隆
2008年2月28日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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