と信じて居る。
 こんな妹を私に下すった両親にも感謝する。
 私は、立派な妹を得た姉の誇りで輝いて居る。
 会う人毎に、
「そりゃあ、大きな可愛い児でございますよ。
と云って、来た人には抱いて見せ、行った先では身振りまでして、話して聞かせた。
 たまらなく可愛いので、やたらに抱くので、もう私と看護婦の手を覚えて、どんなに泣いて居ても、二人の内が抱くと、きっと泣き止む。
 成丈、脊髄を曲げない様に、左右の手を同じ様に発育させる様に注意して、ゆったりと胸に抱えあげて、形の好い鼻からさし引きする安らかな呼吸を聞いて居ると、私の心は、類もない希望と、安心にときめいて来る。
 長年の勉強と努力で、漸う出来た私の智慧の庫(それは、額の両端が、際立って発達して、手でさわると二つの分れ目にあたる中央部はズーッと凹んで居る)を、この児は、生れながらにして至極小さくはあるが持って居る。勝れた利口に育ってくれる事は確かである。
 私は、どうしても、好い自慢の出来る児に仕立てあげなければ……。
 あんまり可愛がりすぎて刺戟を多すぎさせますまい。
 早くから連れて外出はしますまい。
 危険が一瞬間に起った時さけ難い乳母車には、のせない方がいいでしょう。
 小さいうちから、音楽の耳だけは作って置いた方がいいでしょうねえ。
 若し声がよかったら歌を、そうでなかったら何か楽器を、絃楽の方がいいだろうと思いますが、どんなもんでしょう。
 どうしたって、頭の明快な趣味の高い児にならせなければねえ。
 じいっと眼をつぶると、レースのたっぷりついた短かい白い着物を着て、肩まで、丁寧にした巻毛をたれて、ムクムクした足で踊る様に足拍子を取って、私に手を引かれて歩く様子が、あざやかに、目に浮いて来る。
 心の立ち勝った妹を助手として持つと云う事は、何か一生の仕事を定めて、勉める姉の身としてどれほど心強いか分らない。
 如何に弟達は、立派に又、数多あっても、何かにつけ細かに心づけて呉れるものは、妹に及ぶものはないのである。
 私は此の歓喜を永く記憶するために、この短かい一篇を記すと同時に、親切な、筆を以て、細かに、「生い立ちの記」を年毎に月毎に日毎に書き記して置きたい心がまえである。
 人中に居ると見えて見えない。
 ごたついた中になんか入る柄でないのにと私は思う。
 あの気の多い王妃などは、向うから出て来ても私
前へ 次へ
全3ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング