ことしの税の問題です。重税のために自殺者や一家心中、破産者がこれほど出た国は、どこにもありません。それはシャウプ勧告の徴税法が過重であるのではなくて、税務署の役人の税をとりたてる方法がわるかったのだろうと言われたそうです。しかし、そう言われたからといって、死んだ人は生きかえりません。そしてやはり農村は税で破滅させられかかっています。
金づまり、そして農村はいたるところ危機に立っている。その危機に立っている日本の農村のどのひとつの村と町に、戦争未亡人がいないというところがあるでしょうか。全国二百万ちかい未亡人で十八歳以下の子もちのひとが八八・四%あります。そして内職しながら保護法もうけて生計を保っている未亡人と子供が全体の八五%を占めているといえば、ますますひどい金づまりと税の不安で、最も悲惨の加わるのは農村の身よりにたよって生きる未亡人と子供たちではないでしょうか。
子もちの婦人のための職場はなかなかありません。内職で十一時間――十七時間働きつづけても、生活をまかないきれません。未亡人が教師その他の職業をもっていて一定の経済力があっても、その家の中で舅姑、小姑にたいする「嫁」の立場にかわりはないばかりか、一家の柱として供出、税、どれひとつ男の戸主がいるときどおりにとり立てられ、増加して徴収されていないものはないのが現実です。
現在日本には一千万人の小学生がいます。憲法では、小中学校教育は親に負担とならないものとされていますが、実際には、労働者が一人の子供を小学校に出すのにさえ大体一ヵ月三、四百円はかかっていて、「夜の女」としてとらえられた一人の未亡人が、次の朝入学式に出る子供のためにどうしても金が入用だったからと泣いて訴えた実例があります。
農村の苦しい生活の中で「くち[#「くち」に傍点]を減らす」ために少年労働に売られていく女の子、男の子のすくなくないことは、周知のことです。そういう境遇で、学校へもやられず、労働基準法の取しまりの目をくぐって農業、家内工業その他に働かせられている子供たちは一〇五万人もいます。これらの子供たちの未来は明るいとはいえません。戦争で父を失くした子供たちが、おさない心に運命をあきらめて社会の下積みに沈んでいく小さい姿を思いやったとき、わたしたちの心に湧くのは何でしょう。もっと住みよい社会を! 人が人らしく生きられる社会を! という
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