想とが大きい波をかぶりつつ経て来た日本のこの数年間の生活の思い出を、あたり前の文学上のもの云いで語らず、こういう鬼や地獄をひき出して描き出すこの作者のポーズ、スタイルというようなものと、今日大陸文学懇談会とかいうところの一つの椅子に財務員という役目でかけている作者伊藤整氏の姿とを思いあわせると、そこになかなか面白い一箇の人間の現実がある。今日の文学には、ただ題材のめずらしさより一歩ふみ入って人間の心にふれようとする意味で心理が描かれなければならず、諷刺の精神も活をいれられて結構の時節である。しかしながら、そういう意味での心理描写や、諷刺を幽鬼の街と村との内の世界に求めることは徒労である。むしろ、こういう作品との関係でその作家の生きつつある現実の生きようを見きわめようとするところに、血と肉のある現代人の知性が発揮されるのであろうと思う。[#地付き]〔一九三九年六月〕
底本:「宮本百合子全集 第十一巻」新日本出版社
1980(昭和55)年1月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
親本:「宮本百合子全集 第八巻」河出書房
1952(昭和27)年10月発行
初出:「九州帝国大学新聞」
1939(昭和14)年6月20日号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年2月17日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全2ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング