う。
彼は、他のものまで凍えさせては大変だと云う風で、一も二もなく火の気のある室内に籠を引入れた。籠は彼の手造りである。無骨な、それでも優しい暢やかな円天井を持った籠の中で、小鳥等は崩れる薔薇の響をきき乍ら、暖かい夢を結ぶようになった。
顔を洗いに行こうとして、何時ものように籠傍を通ると、今朝はどうしたのか、ひどく粟が乱雑になって居るのに心付いた。籠の中に散って居るばかりか、一尺も間のある床の間まで、黄色い穀粒は飛んで居る。其にも無頓着で、彼等は、清らかな朝日を浴びて、枝から枝へと遊んで居る。いずれ行儀のわるい「じゅうしまつ」が、例の通り体ごと餌壺に入って、ちっ、ちっと、首を振り振り撒きちらしたのだろう。私はそのまま忘れて仕舞った。
やがて昼近くなり、まつが食事のことで物を尋ねに来た。そのきっかけに私は机の前を立って、縁側に出た。直射する光線を嫌う私の机は、北向の小部屋の隅にある。何処となく薄ら時雨れた日、流石に自分もぬくぬくとした日向のにおいが恋しく感じられたのである。来年の花の用意に、怠りなく小さい芽を育てて居る蘭の鉢などを眺めながら、何心なく柱に倚って居ると、頻りに鳥籠が騒
前へ
次へ
全8ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング