いう、いかがわしい経歴の若い男が大衆の前に全身をあらわすことのできない党というものへの好奇心や畏怖やを利用して、未熟で正直な若い※[#「女+保」、70−13]母タミノを、意味深長なヒントで自分にひきつけようとしている過程、それに対するひろ子の不信と警戒の描写は、当時の各組織内に挑発者が侵入してゆく方法や女をひっかけてゆく方法の、小規模ながら一典型である。いろいろな組合わせで特徴のあらわれている会話の調子も、一九二八・九年ごろからこの作品のかかれたころまでの、左翼活動家たちのものの云いかたである。警察の特高と※[#「女+保」、70−17]母たちとの応酬も短いうちにティピカルなものを示している。重吉対ひろ子、臼井とタミノの対照で、階級的な愛情の問題にもふれられている。正面から階級闘争をとりあげているという意味で、この「乳房」は、正統的なプロレタリア文学の作品として、公表されることのできた最後の作品であったということができる。プロレタリア文化、文学団体は前年に解散してしまっていて、文学の面ではもうそのころ没階級的なリアリズム論が氾濫していた。武田麟太郎の市井的のリアリズムと、島木健作の凄みズ
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