く映しかえして生きてゆくその歌声という以外の意味ではないと思う。
そして、初めはなんとなく弱く、あるいは数も少いその歌声が、やがてもっと多くの、まったく新しい社会各面の人々の心の声々を誘いだし、その各様の発声を錬磨し、諸音正しく思いを披瀝し、新しい日本の豊富にして雄大な人民の合唱としてゆかなければならない。
新日本文学会は、そういう希望の発露として企てられた。雑誌『新日本文学』は、人から人へ、都会から村へ、海から山へと、苦難を経た日本の文学が、いまや新しい歩調でその萎えた脚から立ち上るべき一つのきっかけを伝えるものとして発刊される。私たち人民は生きる権利をもっている。生きるということは、単に生存するということではない。頭をもたげて生活するということであり、生活はおのずからその歌と理性の論議をもっている。そして、それを表現する芸術こそ、地球上の他のあらゆる生きものの動物性から人間を区別する光栄ある能力であり、その成果によって私たちははじめて生きてゆく自分たちの姿を客観し得るのである。そういう文学の砦《とりで》として『新日本文学』は創刊されようとしているのである。[#地付き]〔一九四六年一月〕
底本:「宮本百合子全集 第十三巻」新日本出版社
1979(昭和54)年11月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十一巻」河出書房
1952(昭和27)年5月発行
初出:「新日本文学」創刊準備号
1946(昭和21)年1月
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年4月23日作成
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