つけ、自分やひとの生活をゆたかにして何かの意味で人間の進歩に役立ってゆきたいと思っている日頃ののぞみは、こういう形でも具体化される一歩があろうというわけである。
若い婦人の感情と科学とは、従来縁の遠いもののように思われて来ている。昔は人間の心の内容を知・情・意と三つのものにわけて知は理解や判断をつかさどり、情は感情的な面をうけもち、意は意志で、判断の一部と行動とをうけもつという形式に固定して見られ、今でもそのことは、曖昧にうけいれられたままになっている点が多い。だから、科学というとすぐ理智的ということでばかり受けとって科学を扱う人間がそこに献身してゆく情熱、よろこびと苦痛との堅忍、美しさへの感動が人間感情のどんなに高揚された姿であるのも若い女のひとのこころを直接にうたない場合が多い。このことは逆な作用ともなって、たとえばパストゥールを主人公とした「科学者の道」の映画や「キュリー夫人伝」に讚歎するとき若い婦人たちはそれぞれの主人公たちの伝奇的な面へロマンティックな感傷をひきつけられ、科学というとどこまでも客観的で実証的な人間精神の努力そのものの歴史的な成果への評価と混同するような結果を
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