容を、昔ながらの女のつつましさや自己犠牲というもので思い描かない青年たちが果して幾人いるだろう。体の健やかな共稼ぎの出来る能力のある女性や積極的に日々を展開してゆける機転と賢さと生活力を湛えた女性をこそ必要とするのだと、はっきり男として自身の感情の方向をつかんでいる若い人たちは何人あるだろうか。
時代が私たちに課していることはいろいろあって、その中を生きてゆかなければならないのだけれども、目前の波に私たちが洗いさらされてしまわなければならない事はないと思う。
時代の荒さ、事々のむずかしさに甘えて、私たちは自身の世代というものを、ただ何とか生きすぎたという空虚なものに終らせたくはないと思う。
家庭というものについても、現代は観念の上で、或は道義の論として大変大切にいわれながら、家庭の現実では菓子一つの実例にしろ甚だ不如意におかれている。家庭における明日の価値の創りてとしての若い男女は結婚や家庭生活に対して前に向ったそれぞれの顔をそらして、後ずさりしてしまってはならないと思う。在る問題を自分の心に向ってもはぐらかしてはいけないと思う。
[#地付き]〔一九四一年五月〕
底本:「宮本百合子全集 第十四巻」新日本出版社
1979(昭和54)年7月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第九巻」河出書房
1952(昭和27)年8月発行
初出:「三田新聞」
1941(昭和16)年5月25日号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年5月26日作成
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