る。頭がいる。強い心がいる。
 種々な素人劇団が起るのは、「芝居道」以外の人間には時々我慢の出来ない玄人の臭味と浅薄さとを嫌うからである。併し、目指す方向は正しくても、舞台を踏んで遣りこなす教養がどうしても足りないので不具になる。近頃、女優劇と云えば、既に或る程度の水準が定められ、喧しくがみがみ云わない代りに多くも期待しないという状態にあるのを、自分は飽足らなく思う。そうさせて置く方もして置く方も、淋しい。どうぞ、もう一息のところぐっと深くなって、真個に私共の要求する素人の真剣、純さと、玄人の鋭さを具備した大きいものになって欲しい。どうせ一旦女優になったからには、一生取るにも足りない毀誉褒貶《きよほうへん》の的となってのみ過るのは、余り甲斐ないことではないだろうか、過去十年の時日は、何か、更にもう一歩を期待させる。
[#地付き]〔一九二一年十月〕



底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年3月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十五巻」河出書房
   1953(昭和28)年1月発行
初出:「新演芸」
   1921(大正10)年10月号
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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