参加するばかりか、中野は三十年間転々としてアメリカであらゆる労役に従事していた間に、鉱山の大ストライキにプロレタリアとして夜も眠らず働いたことがある。なおかつ現在では自分の周囲におけるアメリカの子供の中からピオニイルを養成しているというのであるから、おそらく日本移民労働者の一人として、アメリカ共産党に組織されているのであろう。
「亀のチャーリー」一篇を読んで最も強く印象されることは、亀のチャーリーという中年の男が全く孤立的に書かれていることである。生活的な面では住んでいるアメリカのプロレタリア大衆とも、故国日本の革命的大衆ともなんら切実な交流を持っていない。ポッツリ切りはなされている亀のチャーリーという男が、ニューヨークには、ほかの日本人労働者も学生も商人もいるであろうのに、それらとはちっともかかわりなく、またアメリカの労働者、その前衛とも何の有機的結合をも示さず、ひたすらアメリカの子供に向って公式的な宣伝教育をしてはせっせとピオニイルにしてゆくことが書かれている。――これは全く著しく変であると思った。
 ピオニイルの組織は誰でも知っているとおり、どの国においてもプロレタリアートの指導のもとに組織されている革命的な階級的少年少女組織である。ピオニイルは共産青年同盟員によって指導されるのが通例であり、おそらく五十を越しているであろう腕の毛まで白い亀のチャーリーにその任務がはたせられていることはなかろうが、それは一応チャーリーの子供好きの特色、独特性によるものとして、どうも納得できないのは、亀のチャーリーがピオニイル養成という現実の仕事の理解に対して示している機械的な卑俗的な、安易さである。
 たとえば、メリイという女の子が夏場彼の店に出入りしてピオニイルになる過程を作者は手軽くこう書いている。メリイに本を読ますと円い青い目をクルクルさせて「正確な理解力」を示し、「十日ばかりチャーリーの店の手伝いをして」「やめる時にはもうピオニイルの組織に入ってい、弟や妹ばかりか父親や母親たちへまで宣伝するようになった。」あるいは失業者の息子が二人、店に掻払いにきたのに、亀のチャーリーがつかまえて説得して「本」をやると「二人はやがていいピオニイルに成長して、いつも二人で組になって活動した」と。
 あとからあとからそのようにしてつくられるピオニイルらは、どこへ組織的にはつけられるのか、ど
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