十日の各新聞によれば「内閣即時退陣せよ」と進歩党をのぞく四党代表者会議の決定が首相に示された。その席上で幣原首相は、私も自分の利益のために粘っているのではない、国を憂えることは諸君と同じだが、方法が違う、と意見を披瀝しはじめたら、傍から楢橋書記翰長が、なお言をつごうとする首相に「『ストップ』と命じ、首相にこれ以上の発言を許さなかった」(四・二〇、毎日)という意味深長な寸劇が行われた。この「ストップ」について、私たちの心には、計らずもつい四日前、朝日新聞紙上によんだ一つの記事が思いおこされた。それは「偽装の魅力『国民戦線』」という見出しの記事であった。「与党工作の舞台裏」で楢橋氏が首相を動かしているいきさつが解剖され、極めて興味あるくだり[#「くだり」に傍点]があった。これからつくろうとする新党の性格にふれて、十四日、楢橋氏は首相に向い次のような意味の話をした。「あなたは三菱の婿であり、これまで資本家の代表であるかもしれないが、これからの日本を再建するのは労働力以外にはない。住んでいるのは今の家でもいいが、裸になって労働者の代弁者になった気でおやりにならねば駄目だといい、幣原首相を驚かせた」というのである。総辞職を求めて来た四党代表に向って、首相が自由にものをいったら、そして、その場での誠意を表明しようとしたら、彼は、国を憂えているという自身の心を証明するために、更にどう話をつづけたであろうか。楢橋氏の「ストップ」令は、何をストップさせたのであったろうか。バルザックの小説の場面が髣髴《ほうふつ》される。仮に、首相が楢橋氏の進言に従って三菱の婿としての立場を考え直す、ということで、国を憂える真意を裏づけようとでもしたら、政府は、目下試みているような憲法草案を仮名まじり文にしただけの押しつけや、労働法の骨抜き作業などをつづけることは全く不可能であり、東京だけで五万人の失業者の群をつっ切って政権争奪の自動車を駆らせていることは出来ないことになって来るのである。
このようにあくどい動きのある側らで、三十数名の婦人代議士たちは二十五日に女ばかり集って、市川房枝女史の世話役で婦人代議士のクラブを作り「女は女で」やろうとしていることが告げられている。
婦人代議士たちは、いま危険な立場にある。自由党、進歩党の首領たちは、過日「婦人に得票をくわれた」と表現した。自党から立った婦人代議士に対して、これら保守の党は、どんな責任と義務とを感じているのだろうか。今のところ、まるでその実在性を念頭においてさえもいないように見える。保守の党が中央部、又は執行機関に婦人代議士を一人も包括しようとしていないばかりか、社会党も、婦人代議士は婦人部で、という風で、一政党の政策というよりも社会政策的な婦人部案を発表している。これらの立場は女としてはた目にも切ない。婦人代議士たちは代議士になってみて、今更切実に、既成政党が婦人代議士に求めていたものは、宣伝の色どりであって、実質的な政治への参加でもなければ、婦人の社会的、政治的成長でもなかったことを知らされているのである。婦人代議士の質が低いためばかりでなく、既成政党の本質的な封建性のあらわれなのである。
婦人代議士ばかりがかたまろうとするならば、その集団の力で内外へ働きかけ、各自の党が、婦人代議士たちの存在に組織的な現実性を賦与するよう、組織の内部へ正直に婦人代議士をも編み込むよう活動することに、最良の、そして最も適切な方向がある。もし、女ばかりの小集団になれば、既成各党は、何の苦痛も感じることなく「ああ、それは御婦人たちの提案で」とスーとわきを通過してしまうだろう。既に、米の三合配給などを公約した婦人たちは、途方にくれる立場にさらされている。自由党はそのような公約はしないといい、進歩党は「俺は知らないよ」といい、社会党は、落選代議士の公約であるという説明を与えている。婦人代議士は、私たち日本の婦人があらゆる場面で経験しているように、今や「婦人のことは婦人で」解決するためにも、日本の封建性と既成政党の腐敗とに対して、精力を傾けて闘わなければならないという教訓に面することとなったのである。
各婦人代議士たちが、公約履行の責任を明らかにするためには、自党の封建的な性格と組合ってそれを打破してゆかねばならず、そのためには、自身既成政党への再認識を明らかにして、一般の民主的輿論の圧力と結合し、自党内における婦人代議士の位置と「彼女達の公約」を政党としての公約として確立しなければならないのである。反民主的な演説の筋書きを与えられ、おくれた日本の、ものの考えかたにアッピールした婦人代議士は、今日自身の存在のために、そのようにして自身を立たしめた保守の力に向き直って闘う必要に迫られているのである。
今回選ばれた婦人代議士た
前へ
次へ
全4ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング