のみこんで居ますと云う様な態度が、居る時からいい感じを与えて居なかった。
 一やかんもの熱湯を髪の癖なおしにつかって、一時間位鏡の前に座って居た彼の女をよく云うものはない。
 頭の地にすっかりオレーフル油を指ですりつけて、脱脂綿で、母がしずかに拭くと、細い毛について、黄色の松やにの様なものがいくらでも出て来る。
 小半時間もかかって、やっと、しゃぼんで洗いとると今までとは見違える様に奇麗になって、赤ちゃけて居た髪もすっかりつやがよくなって来た。
 よっぽど気持がいいものと見えて目をつぶって、フンとも云わないで居たのがその勢で、すっかり眠ってしまった。
 あんなに可愛い可愛いと口ぐせの様に云って居ても、他人はやっぱり他人だと思う。
 四時頃になって少し涼しくなってから、わきに濡手拭を引きつけて、汗をふきふきこれを書き出す。
 段々気が入って、ペン先の中に皆自分がこもってしまった様になると、背中の方から段々暑さが忘られて来るのが真に快い。



底本:「宮本百合子全集 第三十巻」新日本出版社
   1986(昭和61)年3月20日初版発行
※1915(大正4)年8月11日執筆の習作です。
入力:柴田卓治
校正:土屋隆
2008年2月28日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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