からってかりて来たのに」
「降りるさわぎのとき、とられたのかもしれない。すっと引っぱって、とるんですて」
「まア! わたし帰れないわ、どうしましょう。届けたって、出ないでしょうね!」
「出ますまいねえ」
 縋りつくようにきかれた男は、苦笑ときの毒さとを交ぜてぼんやり答えている。
「困っちゃったわ、全く。今日はじめて出たのに、こんな目に会って……」
 半分啜り上げるような早口で歎く娘は、空のリュックを吊って前へうしろへ揺られているのであった。
[#地付き]〔一九四七年九月〕



底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年3月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
初出:「談論」
   1947(昭和22)年9月号
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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