様がないじゃありませんか
じゃ、この幅をひだによせて右左に一本ずつたたみましょう、そうすると、真中に合わせめの線があって[#ワンピースの胴によせるひだの図(fig4206_08.png)入る]なるから少しは形がつくでしょう」と手真似して話した。
夢 四
天皇、ステーションに停って居る汽車の中から何か宣う
体をゆすりつつ 今大きな声 急に小さい声 又大きい声 変に不安だ。群集笑う 「何故笑うのか」と怒り給う。
[#ここから1字下げ]
〔欄外に〕
新聞に天皇が多摩陵へ御出かけのときの車窓に立った憂鬱な写真を見た
[#ここで字下げ終わり]
すると今度は自分が立って喋って居る。
「私は眠れません、世界に思想がありすぎるのです、
まだ字を知らなかった時から人間はこんな形で(と手の指で楔形文字の形をこしらえて見せ)思想を表して来た。
それから何万年かの思想がたまって来て居るのですもの、どうして眠れましょう ああ、思想が多すぎるのです」片手で胸を押え悲痛な感情で叫んだ。
目がさめてもその心臓がちぢんだような悲しい感じのこって居た。元ずっと前 国男が首を吊ってフロの中に下って死んで居た夢見たときも目をさましてから、その悲しみに打たれた心持去らず悲しかった、それに似て居る。
A、Y、志賀さん
A、Y、 Yの心のよさに対して自分は彼女を 傷つけること出来ない。
Aには肉体的にひかれるのです
苦しい、志賀さんに来ていただく
そう云って居る 夢の記憶
ディテエールはっきりせず、
何か大きな宿やのようなところ
[#夢の宿屋の間取り図(fig4206_09.png)入る]
こんな部屋に入り
二人でねられますか? 大丈夫?
ときいて居た記憶、(千ヶ瀧の思いがあるのだ)
女が育てる女のつまらなさ[#「女が育てる女のつまらなさ」に傍点]
電力が欠乏した活々しないものをつくる力が女同士ではある。
どんなにその女を女が愛しても やはり同性の相殺、心理的にあり、男ばかりの中で育った男と同じ欠点女ばかりの生活にはあり、
[#ここから1字下げ]
〔欄外に〕度量 幻想の欠乏。安定専一のところ。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
┌そうでないかと思うと
┤ 三宅やす――つや子とのような親娘二人でおしゃれし 同性の 男性に対する同伴者となるようなもの
└ 津田敏子と娘のようなの 本当の母娘関係少し。
[#ここで字下げ終わり]
京言葉
「なあ、へ ×はん」
「あんたはん、お見いしまへんのか」
「あほくさ!」
「けったいな人」
「知らん」
「おおきに」
「そうどすか」
「私《うち》、知らん」
「そらあてかて 知ったるさかい」
「知らん、云わはるやないか」
「どす がな」
「ふーむ、そか?」
「えげつない奴《やっ》ちゃな」
「とでも云えばええが」
「もっさりしとる」
「よう 肥えてやはりますな」
胴間声
「今日《コンチ》は、御用はありませんか トウフヤが来ました、アウーイ エー アウーイ」
外事掛
太った男
紺ベルトのついた外套
「あすこでは これやって居たんですよ」
両手でピアノ弾くようにする タイプライターのことなり
「本の宣伝に来たとは思いませんが、得手が分らないんでね」
三月十三日の雪
もう芽ぐんだ桜の枝やザクロの枝を押しつけて、柔い雪が厚くつもった。
床の間には桃が活けてある。
竹をすべって雪の散る音を、おせんはたのしい落付いた心持できいた。
三沢の話
何とかコーセン和尚あり、有名
或僧、出かけて
「久しくコーセン和尚の高名をきく、麦コーセンか、米コーセンか」
「味って見ろ」
「喝!」
「むせたか、むせたか」
雪のあくる日 三月十三日頃
雪ぶつけ
朗らかな大騒動
女 私着物かりてかえるわ
男 そのまんまおかえりなさいよ
若い女 いやァいやいや
底本:「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社
1981(昭和56)年5月30日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第2版第1刷発行
初出:「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社
1981(昭和56)年5月30日初版発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
※複数行にかかる波括弧には、けい線素片をあてました。
※本文の傍点は、「ヽ」(片仮名繰返し記号、1−19)で入力しました。
※「ジ[#「ジ」に傍点]ョちゃん」「ジョ[#「ョ」に傍点]ーちゃん」「音《おと[#「と」に傍点]》」「|違い《チ[#「チ」に傍点]ガエ》ない」の傍点は、「′」に類似した形です。
入力:柴田卓治
校正:土屋隆
2007年8月13日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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