に訊いた。
「あなた、これどの位のものなのです?」
「え? 何?」
日下部は、鼈甲《べっこう》ぶちの大きな虫眼鏡の袋を払いながら、上の空できき返した。
「どの位のものですかと申すのですよ。――」
「どの位――?」
彼は、ちらりと苦笑の影を口辺に走らせた。彼は子供を宥《ゆる》すように云った。
「いいよ、安心おし。――価が出るよ」
みや子はぴたりと黙った。
日下部太郎は、虫眼鏡をとりあげ、余念なく、贋の、而も彼の心を捕えて離さないジョルジョの円皿の上にこごみかかった。
底本:「宮本百合子全集 第二巻」新日本出版社
1979(昭和54)年6月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第二巻」河出書房
1953(昭和28)年1月発行
初出:「中央公論」
1924(大正13)年5月号
入力:柴田卓治
校正:渥美浩子
2002年1月1日公開
2003年7月20日修正
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