で歩いて精女のわきによる。やさしげな又おだやかなものしずかな調子で、
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ペーン お前は泣いて居るネ、そして又大層美くしい。
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精女はおどろいてかおから手をはなし身をしりぞける。
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ペーン 何にもそんなにおどろくことはない。私はお前をどうしようと云うのではないから、どうして泣いて居る?
精女(沈黙。壺のふちを小指でなでながら耳をまっかにして居る)
ペーン 何故だまって居る? そんなに沈んだ泣いた眼をして居ると御前の美くしさは早く老いてしまうから――誰かが御身をつらくしたなら私は自分はどうされても仇をうってあげるだけの勇気を持って居るのだよ。
精女 誰にもどうもされたのではございませんけれ共――今ここに参りましたら老人と若人と三人の精霊が居りましてその若い人は私の前に体をなげ出しましたんでございます。そしたら年とった人達が髪の毛の上に手を置いて御あげ額に一度だけキッスして御上げって申しましたから私はその通りに髪の上に手をのせてあげたんでございます。
ペーン お前が? お前が? 私が三度あんなに心をこめた文をやったのに何とも云わない人が? そうしたらどうおしだ?
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ペーンはねたましげなイライラしたしまったかおをして手をふってせきたてる。
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精女 そうはいたしましたけど――私は何も申しませんでした。そしたら若い人は私に死ねと云え、死ねと云えと申しましたから私は云ってしまいました。
若い人は川の方にとんで行ってしまって二人の老人もそのあとを追って行ってしまいました。私は何の事だかわかりませんで――ただ、一人ぼっちになったんで悲しゅうございました。
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いかにも小供らしい口調で伏目になりながら云う。
ペーンはシリンクスの話のあんまり子供らしいのと泣きぬれてました美くしさにみせられて頬をうす赤くしながらそのムッチリした肩を見ながら、
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ペーン ほんとうにマア、お前は美くしい体と心をもって居る事、私に御前の手の先だけさわらして御呉れ、その象牙
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