て酵母としてそれを暖め反芻し、個人の生活全般を豊富にする養液にしてしまいます。
 また恋愛は、独特な創造力を持っているとも思われます。恋愛は決して百年同一の状態に止ることをしません。必ず或る消長があります。草木が宇宙の季節を感じるように、一日に暁と白昼と優しい黄昏《たそがれ》の愁があるように、推移しずにはいません。いつか或るところに人間をつき出します。それが破綻であるか、或いは互いに一層深まり落付き信じ合った愛の団欒《だんらん》か、互いの性格と運とによりましょが、いずれにせよ、行きつくところまで行きついてそこに新たな境地を開かせる本質が恋愛につきものなのです。

 自然は、人間の恋愛を唯だ男性と女性との+《プラス》だけでは終らせず、精神に於て、男をA、女をBとすれば A+A×B:B+B×A[#「A+A×B:B+B×A」は横書き]という風な関係にすると思われます。そして、数学と全然違うところは、これらの関係がまるで逆になって、+《プラス》のところが−《マイナス》になり、×《タイム》が÷《デバイデッド》となっても、一度真面目に恋愛した人間の心では、決して元の杢阿彌《もくあみ》の単一なAなら
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