ール・クラブのために汗を流して壁新聞を書いたりした。
 が、困ったことが出来て来た。おっかさんがだんだんショゲて来たことだ。おとっさんと別にいるのが辛くなって来たらしい。
 或る晩、おっかさんがペーチャの勉強しているわきで泣いていたと思ったら、次の朝ペーチャが目をさました時、家のどこにもおっかさんの姿が見えない。ペーチャはテーブルの上に、下手くそな字で書いてある置手紙を見つけた。
[#ここから2字下げ]
「可愛いペーチャ! かんべんしてくれなさい。私はお父さんが恋しくてたまらないからレスコフのところへ行く。かんべんしてくれなさい!
[#ここで字下げ終わり]
[#地より5字上げ]愚かな母より」
 涙がペーチャのほっぺたを流れた。
 それから、ペーチャは長いこと考えてたが、その手紙をもって村の集団農場の議長のところへ行った。
 議長は、その手紙をひろげ、読んでから、
「ふーむ」
とうなった。
「……ペーチャ、お前はさてどうするかね?」
 ペーチャは、答えた。
「俺は、集団農場さ残る。……だって、集団農場はサヴェートのもんで――俺《おい》らサヴェートの子なんだもん」
 議長は、大きなつよい手で、しっかりペーチャの手を握って勇ましく振った。
「同志《タワーリシチ》、ありがとう! 一緒に働こう!」
 それからペーチャは、集団農場のクラブで暮すようになった。
 夏休みが来ると、毎朝早く、赤旗がヒラヒラ風にひるがえるトラクトル(耕作の機械)にのっかって畑に出て行くペーチャの姿を、村の人がみんな嬉しそうに見送った。



底本:「宮本百合子全集 第四巻」新日本出版社
   1979(昭和54)年9月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第四巻」河出書房
   1951(昭和26)年12月発行
初出:「少年戦旗」戦旗社
   1931(昭和6)年9・10月合併号
入力:柴田卓治
校正:松永正敏
2002年4月22日作成
青空文庫作成ファイル:
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