人はまだ十分人間になっていない。

 ではどうしたら、婦人の文化水準をひき上げ、少くとも男と同程度にまで高めることができるだろう。
 一部のインテリゲンツィア婦人は、婦人参政権獲得同盟というのを結成した。婦人も代議士に選挙されるようになれば、婦人の経済状態を社会的地位、したがって人間としての文化事情も改善し得ると考える人々だ。が、現実にどうしてそんなことが可能だろう! ブルジョア政治のワクの中でブルジョア政党の代議士に婦人がなったところで、それらの婦人が政党を操っている大金融資本の小指一本でも統制出来るか!
 英国では、マクドナルド労働党内閣は婦人労働大臣にミス・ボンフィールドを任命していた。大臣はソヴェト同盟ばかりではないぞといばった。資本主義経済の必然の行きづまりで、労働党内閣は、今度保守党自由党の連立内閣をつくった。そして、労働党も日本の資本家御用労農大衆党と同じファシズムに対して何の反撥力もない連中であることが曝露した。
 日本の婦人参政運動者をよろこばせた婦人労働大臣ミス・ボンフィールドはどうなっただろうか。彼女が持っていたかも知れない小さい人道主義的な立場に立つ協調主義はけとばされて、地主資本家の利益のはっきりした擁護者保守党のネヴィル・チェンバーレンが労働大臣に任命されている。
 男と同じ長時間、女性の生理にとっては男よりもこたえる労力、搾取にあい、それでいて、ひどい差別待遇をうける世界のプロレタリア婦人は、資本主義の社会機構が立て直されて、社会主義の社会が建設される時こそ、文化における男女の差別は無くなるものだと知っている。
 日々の闘争を通じ、プロレタリア婦人の実力はもり上りつつある。一日も早く、女も男と同じ社会生産の単位として生きられる世の中になるように、正しい力の結集をめざして闘っているのだ。

 今、われわれの棲む地球で、男女が社会の生産の単位として対等に見られ、その上ほんものの母性保護によって現実に保護されているのはソヴェト同盟だけだ。
 では、そのプロレタリア革命を経験し社会主義の社会を建設しているソヴェト同盟で、婦人作家はどんな発育をとげ、現在活動をしているだろうか。

        ソヴェト同盟の婦人作家(上)

 十月革命まで、ロシアは世界で最も文盲率の高い国とされていた。
 ツァーの支配者たち、貴族と資本家の多くの者はロシアの人民が物の道理をはっきり知って、搾取に反抗するのを嫌った。帝政ロシア時代の小学校教育がどんなひどいものであったかは、チェホフが手紙の中で屡々熱情的に抗議しているのを見てもわかる。
 帝政時代、料理女の子供たち、貧乏な百姓、工場の平労働者の子供は、男女とも中学へ入ることさえ許されなかった。ロシアの支配者は人民に学問や現実的な知識を授ける代りに、高い税で政府がしこたま儲けつづけた火酒と、封建的な絶対服従にあきらめる思いを祈祷の文句で、人民の精神に植えつける僧侶とをあてがった。
 女と男との地位は、ひどく男尊女卑だった。人民――労働者農民は、気の向いた時に彼等を擲りつけることの出来る主人をもっていた。主人の樺の枝の鞭の前には平伏しなければならない小作人でも、自分の小屋では主人だった。
 彼が擲りつけても誰からも苦情の出ない者を公然ともっていた。それは女房だ。子供らだった。
 ロシアの古い民謡の中に、若い娘の婚礼の唄がいくつもある。陽気なのは一つもない。哀しそうに
[#ここから2字下げ]
私が嫁に行くと云って
何のよろこぶことがあろう!
自由な楽しい私の若い日は終るのに!
[#ここで字下げ終わり]
 実際、娘たちは編下げの髪を編みながら涙をこぼしてそういう唄をうたった。父親同士が勝手に結納として家畜だの道具だのをやりとりしてしまえば、当の娘は否も応もない。まだ見たこともない男の妻となり、その一家に新しく加った一人の無償労働者として耕地を這ずりまわらなければならなかった。
「十月」はロシアのあらゆる場所でいためつけられていた勤労婦人を実質的に解放した。労働者農民・働く全人民の解放のためのたたかいを支持し、その困難な建設時代を貫いて男と等しく生産にたずさわり、男と等しく戦線に立ち、ソヴェトの勤労婦人は解放された女の真価というものを、自分とひと[#「ひと」に傍点]とに向って確めた。
 ソヴェト権力とともに、文化の光はシベリアの奥へまで射しはじめた。一つの村に赤旗が翻ると、もうそこには、村のクラブと文盲撲滅の学校が出来た。そこで機械がまわり、男女の労働者が働いている工場なら生産管理の工場委員会が男女労働者とその指導者によって組織されると同時に、文化部の活動がはじまった。
「十月」以後、ソヴェト同盟では勤労大衆がみんな自分の年齢を忘れた。年を忘れて、社会主義社会の建設に熱中しはじめた。
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