明りょうである。ファシズムがおこったときフランスに人民戦線運動がつくられたのをはじめとして、世界の民主的方向が労働者階級の同盟者として農民、更にその協働力として進歩的な小市民、インテリゲンツィアが連帯活動におかれている。このことは、私たちに民主主義文学運動において労働者階級の文学が更に力づよいものとして発展してゆくべきことを示している。プロレタリア文学運動の業績が正しく評価、伝承されなければならないという声が昨今|漸《ようや》くあちこちにきこえて来た。このことは、民主主義が、階級間の平均化ではないということを、日本の人民が激しい二年間の経験によって理解しはじめたことを意味する。
 わたしが六〇―一頁、六五―六頁にふれている点は、なぜ運動の当初プロレタリア文学だけを押し出したか(有島武郎の死前後)ということをしらべたかったからであった。
 プロレタリア文学が存在しなかったというどころか、逆に何故プロレタリア文学のほかの進歩的文学が過小評価されなければならなかったかということをさぐりたかったからであった。私の書いているその評論の全主旨はプロレタリア文学の存在否定でない。
 一篇の評論はその全文を、一冊の本はその全頁を通して読まれ理解されるのが自然だと思う。プロレタリア文学の伝承を忌避したがる一部の人々があるが今日力をつくして拒否すべきものは、文学運動までをああいう目にあわせた兇暴な治安維持法の変形した再登場である。わたしたちが人間として自然にもつ恐怖を主張し、その原因たる悪権力を克服しようとするならば、私たちは何よりも人民的な民主勢力の発展とその推進の力たる労働者階級の意識を肯定しなければならない。
[#地付き]〔一九四七十二月〕



底本:「宮本百合子全集 第十三巻」新日本出版社
   1979(昭和54)年11月20日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第5刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十一巻」河出書房
   1952(昭和27)年5月発行
初出:「文化タイムズ」
   1947(昭和22)年12月1日号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年4月23日作成
青空文庫作成ファイル:
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