ための宗教解説の本を書いたというのも、興味のあることだ。さきにのべたような当時の社会の巨大な息づきは、ヴィクトーリア時代の淑女の活動的な精力を、社会改善へ向けさせたのであったが、その社会の「悪の起源」を究明する段になると、ナイチンゲールは、スープをのむには匙がいると考えて、それを手に入れたと同様の解釈をしている。彼女によれば、神は全知全能であるから、唯一つであるその神と同じものをいくつも創れない、ために神は常に完全でないものをこの世に造らなければならないというのが、論旨であった。この本をナイチンゲールから寄贈されたジョン・ステュアート・ミルが、この本を手にした労働者と同様に、彼女の理屈はよく納得されないといった時、四十歳に達していたフロレンスはさも意外な面持であった。
社会における「悪の起源」は神が完全であるからではない。社会全般の生活の安定のために働くべき生産の手段――工場や機械などが、それを所有している少数の人々の利益のためだけに運転されて、労働者は、一生ただ日々を生きてゆくための賃銀しか支払われていない、という近代資本主義の生産、経済の方法こそ、社会悪の起源である。イギリスでも
前へ
次へ
全22ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング