ャボン、ナイフとフォーク、櫛と歯ブラシとを、喜んで使い初めた。六ヵ月の間に病院の料理場と洗濯場とは改良され、本国からの積送品を整理するための政府の倉庫ができ、病兵の寝具類は煮沸器で消毒されるようになった。彼女が病兵にもスープ、葡萄酒、ジェリーなどが必要だといったとき、役人たちはお話にならぬ贅沢だ! と目をみはった。彼女の努力でも精力でも、どうしても実施されなかったことが、このスクータリーに一つ残った。病兵の喰べる「肉を骨から離す」事である。役所の規定は「食物は等分に分配すべし」とだけあって、配られたのが骨ばかりだったにしてもそれはその兵士の不運なのだし、ましてそれを噛む顎を弾丸にやられていたとすれば、それこそその兵の重なる不運と諦めるしかない状態なのであった。病院へのあらゆる必需品を調達するのは全部フロレンスの仕事であった。兵たちに靴下、シャツが着せられたのは彼女の個人的な出費とタイムズ社の寄附金があってからできたことであった。これらの緊迫した仕事はどんなものであったかは、当時彼女を看護の天使、優しい「灯をかかげた女人」として世人が感動を示したのに対して、フロレンス自身洩らした言葉にも
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