が床の上でこの手紙をひとに書いてもらわなければならないような健康状態におかれるようになった十数年間のすべての治安維持法関係の書類のかげには、安倍源基の名が関係しています。
 表面上ファシスト団体が解散を命ぜられたといっても、それはちょうど尾津組その他の暴力団が組という組織を変えて近代的な株式会社になり、ますます一般の目からはみわけにくい形で活動をつづけるのと同じような道をたどっています。そのファシスト団体の首領である児玉誉士夫、葛生能久たちが自由市民の生活にまぎれこんできました。
 こういうふうに、国際的に侵略戦争の煽動者であり、ファシズム思想の組織者であったと認められた人びとが、わたしたちの生活にたちまじってきたことについて、どう判断していいのでしょう。わたしは思います。このことは日本のわたしたちの民主主義への努力がどのくらい真に人民の意志の表現であり、その行動であるかをためすものであると。したがって、民主主義をそこなうための勢力に対して正当な批判をおこない、行動によって民主主義の道をえらび、平和のための戦争挑発と戦ってこそ、人民の権利はいよいよ実際的に守られてゆくべきであるというこ
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