云って、うすばかな、しまりのわるい五十姿の女房に別れて着物のほころびまで自分でなおしながら暮して居るこの頃の孤独の生活が気が狂うほどいやで有った。
「これで居てどうして己は生きて居られるんだろうなア」
男はまだそのしなびれた手の皮をひっぱって見る。
骨の中がざぐざぐにくだけたようになって、力の基になるもの、小さい時から云われて居る、生きる根が消えて行って居る。段々よわっていつかしぬ、男は斯う思ってたまらなそうに身をふるわせた。
「死ぬにしなれず、さて、まめでもなし」
男はこんなことを頭の中でくりかえして居った。
「どうしても死ねないものかと、思われる」
先生が生徒に教えるような様に自分の心に男は云ってきかせた。
底本:「宮本百合子全集 第三十巻」新日本出版社
1986(昭和61)年3月20日初版発行
※底本解題の著者、大森寿恵子が、1913(大正2)年6月15日執筆と推定する習作です。
入力:柴田卓治
校正:土屋隆
2008年2月28日作成
青空文庫作成ファイル:
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