キンは言葉をかけようともしない。ワーシカがピューッと音をさせて鞭を振り、
 ――え、おい! ちっと陽気にやろうで!
といった。
 ワーシカとニーナが一抱えの乾草と手風琴《ガルモーシュカ》をとって来た。
 ニキータがあぐらをかいて、手風琴を鳴らした。ワーシカは口笛で合の手を入れ、ニーナが前歯の間でひまわりの種をわりながら、
  お婆さん、石鹸おつかいな。
  馬鹿こくな! お母の腹で石鹸つこうたかよう
  お爺さん、歯ブラシおつかいよ。
  うるさい孫め! その歯があるなら
  ク、苦労すやしめえ!
と唄うと、みんな笑った。
 ――ペーチャ、さ。
 てのひらんなかへニーナがひまわりの種をあけてくれた。
 焚火の焔は揺れ、そのたんびにニーナの派手な橙色のスカートが明るく近づいたり、また遠のいたりして見えた。ピムキンは焚火のあっちで、今腹這いになっている。

        四

 集団農場ソヴェト大会で、ピムキンが、
 ――同志《タワーリシチ》、議長! それは九十二パーセントではねえ、九十二パーセント二分だ。
と、第一列から教えるように播種面積報告の訂正をやった。怒ったように誰かが、
 ――静かにしろ!
と聴衆の中から叫んだ。が、赤い布をかけた細長いテーブルの前に立っていたイグナート・イグナートウィッチは、首のガクつく鈴をチチリ、チチリ、チチリ、と鳴らし、
 ――同志《タワーリシチ》、集団農場員《コルホーズニキ》! そうだ。正しい。われわれのところで、この春の播種面積は予定地積の九十二パーセント二分あった。
 ほほえみながらつけ加えた。
 ――どうか来年は、俺がもっと大きい数字を忘れるような成績でやっつけたいもんでねえか!
 みんな悦んで、笑いながら拍手した。
 ビリンスキー村の集団農場は、二度目の蒔つけを無事に終ったところであった。ペーチャがニキータとトラクターの番をして、乾草の上で夜明しをしたのは、もうまる一年前である。
 この夜の大会は、去年の秋から提出されていた集団農場托児所設立問題をいよいよ実行案として討議した。
 数時間、めいめい遠慮なくしゃべった。それから、委員が起立して読みあげた。
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一、托児所は、村から追放された富農ブガーノフの小舎におくこと。
一、集団農場と村ソヴェト衛生委員会との協力によって毎月二十ルーブリ
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