作家を直接活々とした創作活動にひき込む役には立たなかった。けれども、社会主義的リアリズムの世界的なスケールにおける今日の提唱は、決して文学における階級的主張を引こめたものではなく、それとは全く反対に、従前より更に高まった勤労階級の指導力によって、従前より更に広汎に、具体的に、政策的に、文学における階級的移行の可能性を捉えたものである。第一回全連邦作家大会の報告が、部分部分のやむを得ぬ省略を伴いながらも一冊の本となって既に現われている現在、総ての人の目に、このことは紛れのない実際の到達点として映っているのである。
 大きい過去の作家らしく、大きい矛盾に充ちたオノレ・ド・バルザックは不幸にも絵にまで描かれている彼の有名なダブダブと広い仕事着の裾の一端を「リアリズムは作者の見解如何にかかわらず現れて来るものであ」るという鉤をつかって引掴まれ、計らずも一九三四年の困難な日本に、リアリズムを十九世紀初頭のブルジョア写実主義へまで押し戻そうとする飾人形として、悲喜劇的登場をよぎなくされたのであった。
「人間喜劇」の作者が、エンゲルスによってその政治的見解いかんにかかわらず「フランス社会の全歴史をま
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